【脳梗塞になった出版局長】病院では転倒に一番気をつけろ! もし転倒したらインシデントレポートだ!【真柄弘継】連載第5回

◆寝て食べてリハビリ……毎日繰り返される単調な日常と絶望的な孤独
◾️9月5日金曜日
朝から台風の大雨。
片手が麻痺して杖を使う私には外出困難な日である。
そうならないためにも右腕右手を目覚めさせねば。
昨日の屋外歩行や階段歩行で疲れが残ったのか、最初のリハビリはストレッチだけで終わった。
2つ目の足のリハビリではトレーニングルームを3周。
段差を使って右足の訓練をしたり、レッグプレスで大腿筋を鍛えたり、1時間みっちりと動いた。
3番目は手のリハビリ。
メルツで指を広げる練習。
固かった中指が他の指と同じように開くようになった!
遅々とした動きだけど確実に前に進んでいる。
最後も足のリハビリ。
トレーニングルームを2周したあとストレッチで締める。
テレビでは朝から台風のことばかり。
夕方には神奈川で線状降水帯の発生などがあり、週末はスピード台風に翻弄された外界であった。
◾️9月6日土曜日
台風一過の穏やかな朝である。
けれどテレビでは各地の被害を伝えている。
そんな外界と隔絶されて、今日もリハビリに取り組むのだ。
この日記を書くのは朝の自主トレ後のラウンジや食事前の食堂。
リハビリの時間が空いたときも食堂で書く。
部屋で書くことはない。
朝起きてから夜寝るまでは、極力ベッドに横たわることはしない。
部屋で寛いでしまうと、オンとオフの切り替えがなくなってしまうと思うからだ。
寝て食べてリハビリ、月水金に入浴と、毎日毎日繰り返される単調な日常。
半身麻痺したところを治す以外は何もないのだ。
150日間限定でなければ、正直言えば気が狂いそうになる。
だから私にとって日記を書くことは、少しでも単調な毎日に変化を与える大切なことなのだ。
刑務所に服役している囚人よりは自由はあるけれど、健康な状態と比べれば不自由なことこのうえない。
病棟には看護師さん、介護士さん、セラピストさん、それに患者さんと100人以上の人間がいる。
私も他の患者さんも、絶望的に孤独なのである。
そのような環境で精神的安定を保つのは、とにかく身体を治して退院する、その一点を常に頭の中で繰り返えし唱えるのだ。
リハビリテーション病院に来てから74日目。
入院期限の半分を過ごして、飽き、慣れ、変化無し、その他様々な感情が涌き出てくる。
唯一の救いは、私の頭は壊れたときに、怖い、不安、焦燥などの感情を感じなくなったこと。
けれど、脳も回復してきているようだ。
少しではあるが上記の感情が感覚のようにわかるようになってきた。
午前中は足のリハビリ二つ。
始まりの時間が遅かったから、リハビリの前に自主トレでマシンを踏みにいった。
回復具合の測定や装具を着けての歩行練習。
レッグプレスで両足の筋力を測ってみたら、左足は118キロで右足が52キロと左の半分もない。
利き足は右足だから健康なら120キロは超えていただろう。
この他のチェック項目はすべて数字が向上している。
2ヶ月半で確実に回復していることを、今回も実感したのである。
二つ目で筋トレの新しい方法を教わり、さっそく明日の朝練から始めようと思った。
セラピストさんに、普段の筋トレメニューを伝えると、それだけしているなら納得の歩き方ですと褒めらた。
ますます筋トレを増やしたくなった。
午後は手のリハビリが二つ。
メルツを使って指を広げて掴んだ積み木を離す練習。
食事のときにオシボリで練習しているのだが、掴みは出来ても指を離せないのだ。
いつになったら出来るのか、神のみぞ知る、かな。
最後は肩周りのストレッチで終了。
その後、自主トレのマシンを踏んで本日はこれまで。
明日は休息日で朝の自主トレとリハビリ以外は、のんびり過ごして1日ゆっくりするか。
文:真柄弘継
(第6回「【脳梗塞の出版局長】の明日はどっちだ!? 熱血セラピストO橋さん登場」につづく…)
◆著者プロフィール 真柄弘継(まがら・ひろつぐ) 某有名中堅出版社 出版局長 1966年丙午(ひのえうま)の1月26日生まれ。1988年(昭和63年)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。 2025年6月8日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。 自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。 また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。
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